日本の手術レベル

■日本の技術レベルの現状

椎間板ヘルニアは患者数も多く、テレビ、週刊誌、新聞など様々なメディアで取り上げられることが多い疾患です。テレビでは椎間板ヘルニアの最先端治療と題して、「スーパードクター」や「神の手」と呼ばれる医師を登場させ、最先端の最小侵襲手術を紹介しています。こうしたテレビ番組をみると、日本の椎間板ヘルニア手術は世界的にも最先端レベルであるかのような印象を受けがちです。

日本で最先端医療とされているものに、レーザー治療(PLDD)や内視鏡下手術(MED法)があります。しかし、こうした治療も世界を基準にすれば必ずしも最先端というわけではありません。脊椎疾患治療の先進国では、普通に行われるレベルの手術であり、手術自体の完成度や浸透度も日本より高いと思います。

現在日本で、本当に最先端医療と呼べるのは、PELD(経皮的内視鏡椎間板ヘルニア摘出術)くらいだと思います。これは局所麻酔による0〜1泊入院の手術で、レーザー治療の適応とはならないnon contained type(髄核が線維輪を破って飛び出てしまったタイプ) のヘルニア患者にも実施できる新世代の内視鏡下手術です。しかし、この手術が日本で開始されたのはごく最近であり、日本で実施できる医師も4名しかいないとされています(出典:あいち腰痛オペセンター ホームページ )。
こうした状況をみる限り、日本の総合的な手術レベルはまだ世界のトップレベルには及ばないというのが正直な感想です。

■世界からみた日本の技術レベル

そこで、日本の脊椎疾患手術が、世界的にはどの程度のレベルにあるのかを考えてみたいと思います。実際に世界各国の手術レベルを正確に評価することは困難なのですが、私がその目安になると考えたのは、国際学会において運営委員のメンバーがどの国から選出されているかという点です。これは、ある程度その国の技術レベルを反映する指標にはなっていると思います。対象となる学会は、最小侵襲脊椎手術に関する世界規模での最初の学会となる第1回世界最小侵襲脊椎手術・手技学会(2008年6月3日〜、開催地ハワイ)が適当と考えました。
 http://www.wcmisst.org/about/committee.html

capture from http://www.wcmisst.org/about/committee.html

Scientific Committee
Wolfgang Rauschning (Sweden),Richard Fessler (USA),Kevin Foley (USA),Thomas Hoogland (Germany),Charles Branch (USA),Stephen H. Hochschuler (USA),Neel Anand (USA),Patrick Johnson(USA),Ashish Diwan(Australia),Anthony T. Yeung (USA),Steven Levine(USA),Eric Gozlan(France),Vijay Sheel Kumar(India),Richard Derby(USA),Akira Dezawa(Japan),Kazuhiko Inoue(Japan),Chan-Shik Shim(Korea)

National Committee
Nationality Name
Australia Diwan Dhar Ashish, Ross C. Wilkie
Brazil Pil Sun Choi, Eduardo C. Barreto
Canada Charles H.Rivard
China Shang-li Liu,Bo Yang,Zheng Zhaomin,Zhengxu Zhao,Zhou Yue,
 Qiu Yong,Hai Yong
Columbia Jorge Felipe Ramirez
France Daniel Gastambide, Jean Destandau, Jean-Charles Le Huec,
Gozlan Eric
Germany Thomas Hoogland, Sebastian Ruetten, Wolfgang Ch. Caro
Hawaii Dan Donovan
India Satishchandra Gore, Pradyumna P. Pai Raiturker, Vijay Sheel Kumar
Indonesia Djoko Riadi
Israel Michael Tauber
Japan Yutaka Hirazumi(平泉 裕), Motonobu Natsuyama(夏山元伸),
Kiyoshi Kumano(熊野 潔), Akira Dezawa(出沢 明),
Yuichiro Nishijima(西島雄一郎), Kazuhiko Inoue(井上和彦),
Fujio Ito(伊藤不二夫)
Korea Young Soo Kim, Hyun Jib Kim,Won Han Shin, Sang Ho Lee,
Ji Soo Jang,Chun Kee Chung,Gun Choi,Dong Yeob Lee,
June Ho Lee,Sang Chul Lee,Yong-Chul Kim,Kyung-Hoon Kim
Malaysia Lim, Heng Hing
Mexico Miguel Omar Schez Montalvo, Alejandro Reyes-Sanchez, Ricardo Monge
Portugal Manuel Enes
Russia Igor Borshchenko
Singapore Tan Seang Beng, Tan Chong Tien
Spain Rudolf Morgenstern
Sweden Wolfgang Rauschning
Swiss Hanjeorg Leu
Taiwan Shao Keh Hsu, Lih-Huei Chen, Wen-Jer Chen, Yip Kin-Man
Turkey Tolgay Satana, Tarik Yazar
UK Martin T. Knight, Avinah Haridas
USA Benjamin Alli,John C. Chiu,Farkas Daniel,Anthony T. Yeung,
J. Patrick Johnson,Ken S. Yonemura,Richard Fessler,Merrill W. Reuter,
Sri Kantha,Larry T. Khoo,Daniel H. Kim,Richard Derby,Charles Branch,
Stephen H. Hochschuler, Neel Anand,Kevin T. Foley,Levine Steven,
John Raffols,Lawrence B. Rothstein
Vietnam Vo Van Thanh

Executive committeeをみると、ポストの多くは海外の医師で占められており、韓国が会長とプログラム委員長(いずれもウリドゥル病院)、アメリカが副会長と事務局長、イギリスとフランスが副会長となっています。日本からは出沢明先生(帝京大溝口病院)が副事務局長に選ばれています。出沢先生は、テレビにも出演されているので知っている方も多いと思いますが、日本を代表する最小侵襲手術の権威で、脊椎内視鏡下手術・技術認定委員会の委員長もされています。

次にScientific committeeおよび National committee(国別委員)ですが、日本から選ばれている医師は、平泉 裕先生(昭和大学)、夏山元伸先生(関東労災病院)、熊野 潔先生(フジ虎ノ門整形外科病院)、出沢 明先生(帝京大溝口病院)、西島雄一郎先生(西島脊椎クリニック)、井上和彦先生(東京女子医大東医療センター)、伊藤不二夫先生(あいち腰痛オペセンター)の7名です。いずれもテレビや雑誌等でみかける有名な先生で、日本において最小侵襲手術の普及に大きく貢献されている方々です。

これを見る限りは、日本の技術レベルは世界的にも認知されていると思いますし、一部のトップクラスの医師は、世界に通用する技術をもっていると思います。しかし問題となるのは、高い技術をもった医師の数が限られているという点で、特にテレビ出演するような有名医師の下には患者が集中するため、何年も待たされることを覚悟しなければいけません。いくら最先端手術といっても、一部の患者しか恩恵を受けられないようでは、その価値も半減してしまいます。問題となるのは日本全体の治療レベルであり、病院や医師間の「技術格差」を改善していかない限り、結局損をするのは患者ということになります。

なお日本以外の国でみると、目を引くのは韓国の評価が予想以上に高いという点です。日本人のほとんどは医療に関して日本の方が韓国よりレベルが高いと考えており、多くの部分では事実だと思いますが、脊椎疾患手術に限れば韓国(特にウリドゥル病院)の方が上というのが世界の評価です。これは日本で最先端医療を行っているトップクラスの医師ほど、強く感じていることだと思います。医療の領域は非常に広いため、国によっては突出して高い技術を有する分野もあり、韓国の場合にはそれが脊椎疾患手術だということです。