基本となる考え方

■椎間板ヘルニア手術は安全な手術ではない

椎間板ヘルニアの手術は決して安全な手術ではありません。いかなる手術であっても、合併症や後遺症のリスクがなくなるわけではなく、最悪の場合には脊髄や神経の損傷により四肢麻痺などの障害を残すこともあります。また高齢者や基礎疾患を有する患者では、全身性の合併症により命の危険にさらされることもあります。危険を伴う手術であるからこそ、医師側も積極的に手術を進言するケースは少なく、あくまでも手術を受けるかどうかの判断は患者の意志に委ねられるのが一般的です。したがって患者は、現在の症状や将来的なことを考慮し、手術を受けるかどうかの決断を下さなければなりません。

特に頸椎疾患の手術は、永続的な合併症を起こす危険性が高いとされています。下表は医学書から引用したもので、脊髄外科専門医6名が1996〜2001年に実施した頸椎手術における合併症率です。

5年間の頸椎変性性疾患、頸椎症性脊髄症に対する合併症率
(脊髄外科専門の脳神経外科医より,1996〜2001年)
   神経学的永続合併症   非神経学的永続合併症 
 前方手術(1,370例)  0.2% 0.5%
 後方手術(786例)  0.3% 0.8%
 計(2,138例)  0.2% 0.6%

頸椎・頚髄のガイドブック 初診から顕微鏡手術まで, 金 彪 著, メジカルビュー社, p254-257, 2007

全体でみると、神経学的な合併症(麻痺、筋力低下など)の頻度は、永続的なものが0.2%、一過性のものが1.7%、非神経学的な合併症(嗄声、創感染など)の頻度は、永続的なものが0.6%、一過性のものが1.8%となっています。ここで問題となるのは永続的な合併症です。数字だけをみれば非常に低いわけですが、患者の側からすれば、どんなに確率は低くても、重篤な合併症を起こす可能性があるというだけで、不安に感じるものです。さらにこの数字は、経験豊富で技術的にも高いレベルの医師の成績です。そうした医師が手術を行った場合でも、永続的な合併症が起こるわけですから、技術が未熟な医師が手術するとなれば、さらにその危険性が増すことを覚悟しなければなりません。

患者は手術を受けるときには、医師から説明を聞き、同意書にサインをします。その中には重篤な合併症や後遺症の内容も入っています。そのため、万が一手術に失敗し問題が起こった場合でも、そのことが同意書に記載されていれば、よほど明らかな医療ミスでもない限り、訴訟を起こしても患者側が勝てる可能性はほとんどありません。

■病院選びは納得できるまで行うことが重要

そのため患者の側も自衛手段が必要となり、できる限り合併症や後遺症のリスクを減らすことを重視し、自分自身が納得できる病院、執刀医、手術を選ぶことが重要となります。
こうした点を踏まえて、私の考えの基本としたのが以下の内容です。手術を受けるのは自分自身ですから、どのような結果になろうとも、すべて自己責任と考え、納得がいくまで検討することが重要だと思います。

 手術方法は可能な限り「最小侵襲手術」を原則とする。
 大学病院、有名病院だから技術が高いという先入観を捨てる。
 医師の言うことであっても、全ては信用しない。
 自分の力で最善の病院、執刀医を探す。
 日本に適当な病院がなければ、海外での手術も考える。
 最終的な決定はすべて自分自身で行う。

手術に対して不安を感じない患者はいないはずです。特に頸椎ヘルニアの場合などは、手術の失敗で半身不随になったといった類の話を聞くことが多いため、手術に対する恐怖心も非常に強くなります。すでに手術を受けた人間からすれば、「いつの間にか眠ってしまい、目が覚めたときには手術は終わっていた」というのが普通の感想であり、実際に私もそうでした。しかし、これは手術が成功した人間だから言えることであり、現実的には眠ったまま目を覚まさなかったり、重篤な合併症を発症するケースもないとはいえません。その確率がどれほど低くても、実際に起こりうる可能性がある以上、心の不安を消し去ることはできないものです。

ですから、これでダメだったのならしかたがないと思える位の病院、医師に手術してもらうことが大事であり、全面的に信用して手術を任せられないようであれば、手術を受けない方が無難だと思います。この病院、この先生で本当に大丈夫だろうかという不安をかかえたまま手術を受けた場合には、万が一手術に失敗したときに、ずっと後悔することになります。病院は数多くありますが、自分の体は一つしかないわけですから、最初の病院で納得できるだけの手術が受けられないようであれば、我慢せずに手術する病院を変えることも必要だと思います。