診療科選びの基準
■整形外科と脳神経外科のどちらを選ぶか?
椎間板ヘルニアの手術を受ける場合には、どの診療科を選ぶかということも重要です。一般的に椎間板ヘルニアといえば整形外科のイメージが強く、手術の多くは整形外科で行われています。過去には目視下での切開手術が主流でしたが、最近では内視鏡下手術も普及しており、侵襲の少ない手術が可能となっています。特に腰椎椎間板ヘルニアに対する内視鏡下手術(MED法)は、近年機器の性能が高まるとともに技術の高い医師も増えており、患者にとってメリットの大きい手術方法と思われます。
一方、神経が集まっている脊椎の手術ということで考えれば、神経の専門家である脳神経外科が適しています。現在も、頸椎疾患を中心に多くの脊椎手術が行われています。脳神経外科といえば脳動脈瘤クリッピングや脳腫瘍の手術が代表的ですが、脳の手術を顕微鏡下で行うため、顕微鏡の扱いに慣れており、脊椎疾患に対しても顕微鏡下手術を行っています。侵襲度に関しては内視鏡下手術に比べると若干大きくなりますが、目視による切開手術と比べればはるかに少なく、特に頸椎疾患の場合には内視鏡手術が一般的ではないため、顕微鏡下手術で対応できる脳神経外科は非常に有用だと思います。
したがって、私の考えでは、腰椎椎間板ヘルニアであれば整形外科での内視鏡下手術、頸椎椎間板ヘルニアであれば脳神経外科での顕微鏡下手術が、現状の手術レベルや過去の手術実績などから判断して適当ではないかと思います。
■内視鏡下手術の注意点
内視鏡手術は、手術方法だけで考えれば非常に優れた方法ですが、問題なのはそれを行う医師の技術レベルです。内視鏡下手術を行っている医師が全て同様の高い技術を有してわけではなく、病院、医師による技術の差は大きいと考えられます。そのため、内視鏡下手術を受ける場合には、過去の手術件数、成功率などから、技術的に問題ないかどうかを確認することが大切です。
日本整形外科学会では、脊椎内視鏡下手術・技術認定制度(資格は、内視鏡下脊椎前方手技と、内視鏡下脊椎後方手技の2種類)を2004年から導入しており、認定医の数は2008年1月時点で42名(氏名公表を希望しない認定医を除く:日本整形外科学会ホームページ http://www.joa.or.jp/jp/frame.asp?id1=34 )となっています。この資格の申請には下表の条件を満たすことが求められており、さらに認定基準も非常に厳しいため、認定医の資格をもっていれば技術的には問題ないと判断してよいと思います。
| 脊椎内視鏡下手術・技術認定医の申請資格 | |
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①日本整形外科学会専門医であること。 ②日本整形外科学会認定脊椎脊髄病医であること。 ③日本脊椎脊髄病学会認定脊椎脊髄外科指導医であること。 ④過去2年以上の脊椎内視鏡下手術の修練を行っていること |
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| 1種: 内視鏡下脊椎前方手技 |
術者として20例以上の脊椎前方手術の経験を有し、さらに第一助手として10例以上の前方進入脊椎内視鏡下手術の経験を有すること。もちろん従来の開胸・開腹による脊椎手術を術者として行えることが要求されている。 |
| 2種: 内視鏡下脊椎後方手技 |
術者、または第一助手として300例以上の脊椎後方・後側方進入脊椎内視鏡下手術の経験を有すること。また腰椎椎間板ヘルニアについて、第一助手として20例以上の内視鏡下ヘルニア摘除術の経験を有することが必要とされている。 |
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脊椎内視鏡下手術−基本手技から技術認定まで, 監修 日本整形外科学会脊椎内視鏡下手術・技術認定委員会,南江堂,2007 |
なお内視鏡下手術の適応となるのは主に腰椎疾患で、頸椎疾患に関してはまだ一般的ではありません。最近は頸椎疾患にも内視鏡下手術を行っている病院もありますが、適応範囲や手術方法など十分に確立されているとはいい難く、安心して手術が受けられるようになるには、もう少し時間が必要だと思います。
内視鏡下手術の実施件数は2000年以降急速に増加しており、2004年には5,000例を超えています。その一方で、脊椎内視鏡下手術の認定医は全国で42名(公表者)しかいませんから、実際に内視鏡下手術を行っている医師の中には認定医の資格を持っていない人も多いはずです。
今後椎間板ヘルニア手術は内視鏡下手術が主流になると考えられます。その場合には、内視鏡下手術を確実に実施できる医師の数を増やすことが不可欠となり、そうした医師を育成するためには多くの症例で手術経験を積む必要があります。そのため、今後内視鏡手術を受ける患者は、手術経験を積むための対象患者となる可能性もあり、その場合の対応についても考えておいたほうが良いと思います。
優秀な医師が増えることは医療の進歩のためには必要なことですが、手術を受ける患者にとっては、手術経験を積むのは別の患者でやってもらって、自分の手術に関しては最も技能が高い医師に手術してほしいというのが本音でしょう。